Camecon Magazine

カメラマン 2021.12.01

プロカメラマン長沢慎一郎が語る作品の撮影エピソード〜The Bonin IslandersのRoyさん〜

写真家長沢慎一郎の作品の解説と撮影ポイント、エピソードについてを本人が解説! 今回は小笠原で出会ったThe Bonin IslandersのRoyさんの撮影エピソードを元に、ポートレート撮影のポイントをお伝えします。

写真家長沢慎一郎が語る撮影秘話シリーズ。

長沢慎一郎氏本人が厳選した自身の作品を一枚紹介し、撮影にまつわる秘話や初心者にも参考になる撮影のコツを解説します。

第二弾の今回は小笠原で出会ったThe Bonin Islanders(小笠原欧米系先住民)のRoyさんのポートレート撮影をしたときのエピソードです。

長沢慎一郎とは


長沢慎一郎は、日本の先住民として小笠原に住む「小笠原人」に密着した写真家です。

その他にも広告写真などの撮影も多く行っています。


長沢氏の代表作は自身がフィールドワークとしている、小笠原人に密着した写真集「The Bonin Islanders」http://www.akaaka.com/publishing/the-bonin-islanders.html

日本の先住民として小笠原に住む「小笠原人」に密着し、彼らのアイデンティティに迫っています。

2021年の5月には写真展も開催され、注目されている日本の写真家の一人です。


長沢慎一郎公式HP→ https://shinichiro-nagasawa.com/

今回の1枚:The Bonin IslandersのRoyさん

Royさんとの出会い

最初の撮影から時間が経ち、島の人達ともだいぶ距離が近くなった頃、大平ロイ(Roy Washingto)さんという方が、南太平洋で用いられ小笠原にも伝わる「アウトリガーカヌー」(カヌー本体の片脇あるいは両脇にアウトリガーとも呼ばれるウキが張り出した形状をしているカヌー)を所有しているという事を教えてもらいました。


Royさんを尋ねると、とても気さくな方で、撮影も快諾してくれました。撮影の前にいろいろお話をしたいと思い、お願いしてカヌーに乗せてもらうことになりました。

小笠原の海

その頃、島は台風が過ぎた後で、海が荒れていてカヌーは出れない状態が続きましたが、

その日はうねりがあるけど緩やかで、また島の反対側に行くから大丈夫ということで準備していると、宿のママさんが

「本当にこの波で行くの?気をつけてよ。ライフジャケットちゃんと着てよ!」

と心配して声をかけてきました。

「沖のうねりは多少あるらしいけど緩やかって言ってましたよ。沖には行かず、島のそばを通って島の裏側に行くと聞いたので大丈夫でしょう。」

私はとくに心配していませんでした。

いざ出発

大村海岸からカヌーは出ましたが、自衛隊のヘリポートを超え、鳥帽子島を過ぎた時に見た光景に体が硬直しました。

沖を見ると濃紺の大〜きなうねりが押し寄せて来ます。出る前に、うねりは6m位と聞いていて、緩やかに上下に上ったり下がったりするのを想像していましたが、実際アウトリガーカヌーは船の高さが低くほぼ水面で、迫りくる波が壁のように盛り上がって来ます。

「Royさん!波やばくないですか?大丈夫ですか!」

と聞くと

「大丈夫だよワッハッハ。落ちるなよ〜」

との返事・・・

言葉を失いカヌーにしがみ付きました。

Royさんの過去

私が必死にカヌーにしがみついていると、Royさんが本気で聞いてきます。

「あそこ!カメ!見える?あんなに大きいカメ滅多に見れないぞ!いや〜すごい大きい。飛び込むか?どうする?」

「・・・」

「本当に良いのか?こんなの会えないぞ」

「・・・」

Royさんは、元々海上自衛隊の潜水員をしていて、早期退職して島に戻って来ました。

いわば潜水のプロ中のプロ。

彼だったらて飛び込んでいたかもしれませんが、私は迷いもなくことわり、「カヌーから落ちたら死ぬ!」との思いで、必死にカヌーにしがみ付いていました。

やがて波は穏やかに

カヌーで島を1/4ほど回ると、やっと波は穏やかになりました。

水面から近いカヌーは、ボートとまたは違う気持ちよさ。最高でした。

出発した大村海岸の反対側の巽島の方まで行くと、その近くの岩場にカヌーを着けました。

Royさんとの絆

「この穴にタコいるよ、こっち来て手を入れて捕まえてみな。」

と言われたので、よし任せろと手を穴にグイッと入れると、すごい痛みがはしりました。

イテテテテ!と痛がってると、

それを見ていたRoyさんがアイスピックのような物を見せて

「こういうのがないと吸われて痛いのよ。良い経験だろ!ワッハッハ」

と笑っていました。

そんなユーモアのある島男のRoyさん、その夜はRoyさんが家でタコを刺身や唐揚げにしてくれたり、他の日に釣った魚の刺身を出してくれたりとおもてなしをしてくれて、遅い時間まで楽しく一緒にお酒を飲みました。

撮影の裏側

Royさんは撮影にもとても協力的で、Royさんの大事にしているアウトリガーカヌーと一緒に撮影した写真もあります。

波で船が動いてしまうのを怪力で抑えてくれていたのですが、4×5のフィルムカメラでの撮影の為、フィルムの交換にどうしても時間がかかってしまいます。

「まだか〜?早くしてくれ〜、結構大変なんだよ!」

「ちょっと待って〜、Royさん動かないで!我慢我慢!良いの撮れているから、もうちょっと頑張って。ハハハ」

こんなやり取りの中撮影は順調に進んでいきました。

ワンポイントアドバイス

私は被写体と撮影者の関係(距離)はとても重要だと思います。

このような良い関係がつくれる時もあれば、そのような時間がないときもあります。

しかし、どのような状況でも、できる限り良い関係をつくれるよう、撮影テクニックだけでなく、被写体との距離感を意識することで良いポートレートが撮れると思います。

まとめ

今回はThe Bonin IslandersのRoyさんとの撮影エピソードを聞かせていただきました。

ポートレートの撮影は、慣れないうちは自分も相手に対して緊張したり、どうやってきれいに撮るかというテクニックに意識が集中してしまいがちです。

しかし、今回お話を聞いたように撮影に欠かせないのは相手との距離感です。

友人や恋人のポートレートのように関係性がすでに出来上がっている場合は、プロ顔負けの写真が撮れることもあるかもしれません。

自分も相手もリラックスして楽しみながら撮ることを意識してみてくださいね!


長沢慎一郎についてはこちらの記事でも紹介しています。

写真集の写真撮影時の撮影秘話も満載ですのでぜひ御覧ください。

先住民としての「小笠原人」に密着した注目のフォトグラファー長沢慎一郎